立教歳時記 連載第6回 松雪草 (Snowdrop)

立教歳時記 連載第6回 松雪草 (Snowdrop)
昨年に引き続き、2010年は厳しい冬が続いている。三月になっても零下の日々が続く中、スノードロップの芽が顔を出してするすると葉を伸ばし、次々に白い花々を咲かせる。ヒガンバナ科ガランサス属に属し、日本では松雪草とも呼ばれている。学名のガランサス(Glanthus)は、ラテン語のglan(乳)とanthus(花)の合成語であり、乳のような真っ白い色を持つ花との意味となる。白いドロップ状の花が校内に見られ始めるようになると、日は長くなり始め、春がすぐそこまで来ていることを感じさせる。イギリスで春の訪れを最初に告げてくれるのである。
職員室等が建築される1994年以前には体操場の入り口にスノードロップの群落があり、生徒達が2月の寒さの中でも体操、行進をする姿を見守ってきた。現在は立教の校内2箇所でスノードロップの花を見ることができる。ガーデンハウス前の池の傍にひっそりと、そしてウエストハウス前の桜の木の下に咲いている。
イギリスでは最初の春の到来を告げる花であるが、ヨーロッパでは古くから鎮痛薬としてその効能が認められていた。スノードロップをすりつぶしたものを額に塗れば、その痛みが治まるとされていた。ガラタミンと呼ばれるアルカロイドはこのスノードロップから初めて取り出され、現在ではアルツハイマー病の治療薬として、また、神経炎、神経痛の薬としても使用されている。
スノードロップが持つ、華麗さ、清らかさからさまざまな言い伝え、風習がヨーロッパには残されている。例えば、2月2日カトリックの教会では、聖母マリアを清めるキャンドルマス(聖燭際)が行なわれ、その中で清純、清潔を示すスノードロップが捧げられる風習がある。アダムとイブがエデンの園から追放された時、外は冬の世界で雪が降りしきっていた。終わることのない冬に絶望するイブを天使が雪をスノードロップに変えて慰めたことから、花言葉には希望、慰めを持つと言われている。ロシアの劇作家・詩人であるマルシャークによる童話劇’森は生きている’でも、幸福の象徴であるスノードロップを女王の命令で摘んでくる少女の話がある。ドイツではこのような言い伝えがある。
「雪にははじめ色がなく、花たちのもとを訪れて、色を分けてくれるように頼んだ。が、スノードロップだけが自分の花の色を分け与えた。雪はそれに感謝し、スノードロップに春一番の花を咲かせる栄光を約束した」