2014年度 入学始業礼拝 校長式辞

2014年度 入学始業礼拝 校長式辞 2014年度 入学始業礼拝 校長式辞
2014 年 4 月 13 日 新入生の皆さん、入学おめでとうございます。そして在校生諸君、進学おめでとう。
この学校は 1972 年、初代校長をつとめた縣康(あがたやすし)先生によって創設されまし た。世界で最初に海外にできた私立の全寮制日本人学校です。
このあと新入生の皆さんにお渡しする胸のバッジには、創立の年を表す 1972 の数字が記さ れています。この胸の数字には、一番最初に海外にできた私立の全寮制日本人学校である、 という誇りがこめられていると思います。今年で創立 42 年、同窓生の数は約 3000 名に達 し、今年ついに、今までお渡ししていたバッジの在庫がなくなってしまいました。はじめ てこのバッジを注文した時には、こんなに沢山注文してしまって、いつかなくなるときが 来るのだろうか、と思ったものですが、意外と早くその時がやってきて驚いています。 今回、新しくバッジを作り直しました。今までとまったく同じデザインですが、金属でブ レザーがこすれて擦り切れるという意見を取り入れて、すべて糸の刺繍でできています。 在校生諸君にも後ほど全員に差し上げます。
創立当時、わずか19名の小学生でスタートしたときの学校は、今、女子寮になっている 本館だけ、寮も教室も食堂も、すべて本館だけで成り立っていました。第4代校長の宇宿 昌洋先生の時代に、在英の各企業や多くの方々のご支援を得て、食堂ホールや教室棟、体 育館や図書館などが完成し、今ある学校の形ができあがりました。そして現在、男子寮3 階の改築工事と、新しい女子寮の建設工事が始まっています。これによって寮の住環境は 大幅に改善されるものと思います。先学期はイギリス各地で洪水や停電になりましたが、 今回の建設工事に先行して行った電気ケーブルの埋設工事により、立教だけはまわりが停 電しても自家発電によっていつも通りの生活ができました。また今まで毎年夏になると断 水に悩まされてきましたが、今回の工事にあわせて巨大な貯水タンクを設置する予定です。
昨年、この建設計画を発表したとき、卒業生の一部から、「こんなの贅沢すぎる、我々の頃 は皆 12 人部屋ですし詰めだった、困難な生活に耐えてこその立教ではないか」というご意 見をいただきましたが、私はそうは思いません。立教の施設は、体育館、テニスコート、 サッカー場、陸上トラック、図書館、理科実験棟、どれをとっても素晴らしいものです。 その中で、生活の根幹である寮の環境整備が後回しになってきてしまった、ということは 否めないと思います。女子寮本館は 100 年以上前のお屋敷、水道の配管は立教が出来る前 のものです。先学期も床下のパイプからお湯が漏れてシャワーが浴びられなくなるという ことがありました。既に復旧しましたが、昨晩も帰寮早々お湯が出なくなっています。こ のような状態を何とか改善したいと思っています。いたずらに生活面で不自由を強いて、 それをもって教育である、とする考え方には賛成できません。
立教の生活は、毎朝 7 時に起きて、ラジオ体操、朝食、礼拝、そして授業と、毎日規則正 しい集団生活です。その生活の中に学びがある。皆で一緒に学校生活を送り、助け合った り喧嘩したり、ひとつの学校行事に向かって皆で力を合わせて取り組んでいく、そこにこ そ立教の教育の意味があると思っています。
球技大会、ジャパニーズイブニング、スクールコンサート、オープンデイ、新春かるた大 会、合唱コンクールなどなど、立教には数え切れないくらいたくさんの行事があります。 様々な行事やイベントを通して、勉強だけでなく、スポーツが得意な人、絵がうまい人、 歌や楽器が上手な人、模型作りに才能を発揮する人、思いがけないところで思いがけない 人が活躍する機会がある、どのクラスにも個性あふれる仲間がたくさんいて、そのお互い の良さを互いに認め合うことができる。一緒に生活しているからこそ、他人の良いところ も悪いところも普通の学校よりずっとよく見えてしまう、それが立教です。
集団生活を通して、他者とのかかわり方、人間関係を学ぶことは、グローバル化が進むこ れからの社会の中で、色々な国の人たちとつきあい、多様な価値観を認め合って共に生き ていくという、真の国際人への一歩でもあります。国際人になるということは、単に英語 ができれば良いというものではありません。人と人とのコミュニケーション、他者への思 いやり、気遣いの心、君たちの部屋をクリーニングするイギリス人のおばさんたちがどう したら掃除をしやすいか、それを考えることも国際人としての大事な一歩なのです。
昨年1年間、中学部2年生は毎日部屋をとてもきれいにして、クリーニングレディースか らサンキューカードやお菓子をもらいました。そんな人と人との小さな人間関係が、実は 日本とイギリスを結ぶ国際関係の基礎になるのだと思います。
かくいう私も、まだイギリスにきて間もない新任の頃、高橋先生と一緒にホームステイし ていた下宿先から追い出されたことがあります。壁に傷をつけたのを黙っていたこと、立 教の教員なら仕方ないのですが毎晩深夜に帰宅してくること、そして多分最大の原因は、 一緒に下宿していたもう一人の先生がそのお家の冷蔵庫に沢庵を入れていたことだったと 思うのですが、その時、下宿先の大家さんから学校に送られてきた苦情の手紙には、「あな た方は日本を代表してこの国に来ていると私たちは思っている。日本のアンバサダーとし てふさわしい行動をしてほしい。」と書かれていて、ショックを受けたのを良く覚えていま す。「あなた方は日本を代表してこの国に来ている。」立場を換えて考えてみると、確かに 観光旅行で外国に行ったときに、たまたま出会ったその国の人から親切にされれば、ああ この国の人は良い人たちだなあと思います。君たちの周囲のイギリスの人たち、掃除のお ばさんたちやキッチンスタッフ、ECの先生方、スポーツの対外試合の相手、ジャパニー ズイブニングやオープンデイのお客様、ホームステイのホストファミリー、交換留学の相 手、そういう人たちは、君たちを通して日本を見ている、君たちを見て、ああ日本人とい うのはこういう人なんだな、と思う、だから君たちは日本を代表してここにいるのだ、そ ういう自覚を持って行動してほしいと思います。
本校の教育理念として、「キリスト教に基づき他者を思いやることのできる人間を育成す る」ということを掲げています。 この教育理念の実現、他者への思いやりの心
は、上から押し付けてできるものでも、一朝 一夕に実現できるものでもありません。42年という長い歴史の中で、君たちの先輩たち、 生徒一人一人、教員一人一人が、力を合わせて実現してきたことです。 小学生から高校生まで、そして教員も、皆が一緒に同じ生活をすることで培われてきたこ とです。先学期、夜中に具合が悪くなったりしたときに、保健室の磯田先生は自分の当番 でなくても何度もロッジから駆けつけてきてくれました。感謝しなければいけない人は沢 山いるはずです。食堂で下級生がトレイをひっくり返したら、何も言わなくても上級生が パッと集まってきて片づけを手伝ってくれる。立教はそんな学校です。
新入生の皆さんは、これからこの立教という大きな家族の一員になります。はじめはひた すら時間に追われて、生活していくだけで精一杯かもしれませんが、大丈夫、すぐに慣れ ます。わからないことや困ったことがあったら、クラスメート、先輩、先生方、誰に聞い ても親切に教えてくれるはずです。
上級生は今まで先輩から色々教えてもらった、そのことを忘れずに、今度は自分が下級生 の面倒をみてあげてください。高等部3年生の赤ネクタイは、最上級生としての責任の重 さの証です。今日は早速、新入生の案内係として大活躍してくれました。これからどんな 高3になるのか、後輩たちにどんな背中を見せてくれるのか、とても楽しみにしています。 そして高校2年生の諸君、君たちがこれから学校の中心になります。生徒会、委員会、ク ラブ活動、係本部、これからの1年間、どうしたら後輩たちがいきいきと楽しく生活して いけるか、それを考えていくのが君たちの責任です。活躍を期待しています。
下級生は先輩が優しいからといって甘えすぎてはいけません。礼儀を守る、けじめをつけ る、言葉遣いに気をつける、そういうことがちゃんとできなければいけない。下級生がそ れを守れるからこそ、初めて優しい上級生という存在が成り立っていくのです。それを忘 れないでください。
ルカによる福音書第 6 章 31 節に、 「人にしてもらいたいと思うことを、人にもしなさい。」 というイエス様の言葉があります。「人にしてもらいたいと思うことを、人にもしなさい。」 人からあれをしてほしい、これをしてもらいたい、そんなことばかり考えて生活するので はなく、君たち一人ひとりが、友達のために何をしてあげられるか、先輩のため、後輩の ため、一緒に生活している人のために何ができるのか、いつもそういうことを考えながら、 これからの生活を送っていってほしいと思います。
君たちの成長を祈って、本日の入学・始業礼拝式の式辞といたします。