立教英国学院

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立教生が綴る英国寮生活


父が倒れた。
 三学期の末に、初めて掛かってきた母からの電話はそんな内容で、妙に冷静な母の言葉がいつまでも耳に残った。
 その時にはもう退院しているから、大丈夫だからと言いきかされた。両親なりの優しさだったのだと思う。だから、私は安心して三学期を終えた。
 帰ってきた家にはビンラディンがいた。父はヒゲを長く伸ばしてにこにこ笑っていて何事かと思ったが、どうやら少し休みをとって休養しているからヒゲをそっていなかったらしい。初めて見た姿だったので大笑いした。

 私の想像に反して父は闘っていた。いつも寮にいる娘が言ってもアレだけれども。父は肉類や濃い味付けのものが大好きで、でも健康のために毎日サラダや薄い味のものばかり。毎日歩いてもいた。後半は町内を歩いたりして一万歩。家で歩いたり、目のトレーニングをしたりして努力しているのも見た。不安とも闘っていたと思う。今も、闘っているだろう。健康や、仕事や、私達のことで。
 私はこの春、失う怖さを知って、有る幸せを知った。一学期、失った後の言いようもない悲しみも、知った。不安な春だった。でも幸せな春だった、と思う。それは父も、母も弟も同じだったと信じている。
 私はここへ来る時全てを失った気がした。家族と共にいられない。友人も土地も全てリセットで、取り戻すのは難しいと知っていた。だけど違うのだ。失ったりはしないのだ。病も距離も死でさえも私達から一つも奪うことなんてできない。いつだって手放しにしているのは私達自身で、だからこそいつまでも持っていられるのだ、と思う。
 諦めないでいようと決めている。諦めないで欲しいと願っている。

 私達が大好きだったという記憶も、手放したくない場所も、どんなに離れた友達も、私達は持っていられるのだ。そう信じていられるのだ。
 小娘が、と思うかもしれないけれど、特異な体験をできた幸運な小娘の学んだ少ない一つだ。信じてほしい。それでも春は来た。また新しい一歩をふみだせる。私達は進める。
 どこからだって。

(高等部2年生 女子)
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