チャペルの窓

チャペルの窓
今日はあんまり暑いからブレイク開始を一人徒競走の合図にして誰と競ったのかはよくわからず、チャペルの鍵を借りてそこのグランドピアノで練習したが、全然気が入らない。チャペルの窓の木枠にほおづえついて、ぼーっとしていた。
「今日も夕日はキレイだなぁ。」なんて。
イギリスは今は日が落ちるのが遅いから、もう出番は終わりだと言って遠慮してる空の色に、夕日の柔らかな光がゆっくりと滲んでいた。
窓から下を覗くと、いつもより小さくなった、顔も名前もみんな知ってる人たちが歩いていた。クスクス笑いあったり駆け回ったりして。私も毎日その中を歩いていて悩んだり、泣いたり、笑ったり。ちょっと今日は見ている目線が違うからなのか、そのいつも何往復もしている道に、今までの私の姿が見えるようだった。泣いて、怒って、笑って。たくさんの顔をした私、ここで過ごしてきた私。きっとその時々は前しか、今しか見えてなかったのだろうけど。急にそのたくさんの思いを抱えて歩いているその時その時の私一人一人が愛おしく大事に思えた。私、頑張ってきたんだなぁ。
その中の一人がふと空を見上げたような気がして、私もまた空を見上げた。もうあの空の色はいよいよ「また明日ね。」って消えようとしている。代わりに一日の終わりを皆が寂しくないように優しい夕日の光が広がっていた。
いつか思い出に変わるこの今日はいつ思い出されるのだろう。その時私は何を思うのだろう。その時、どこの窓から覗いているかはまだわからないけれど、今日みたいにきれいな夕日の空があるといい。
チャペルの窓からの景色を目に焼き付けて、私もまたその中の一人へ戻っていった。
(高等部3年生 女子)