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立教生が綴る英国寮生活

当然への翔破


自分のことは自分が一番良く知っている。過去に何度か聞いたこのフレーズに、どこか底知れぬ不安感を抱かせたのは、書店で何気なく手に取った一冊の小説だった。主人公の少年は解離性同一性障害、いわゆる二重人格者であるが、彼自身はそのことを知らず、気付かぬ間にそのもうひとつの人格が殺人を犯してしまう、という内容のようだ。
「ようだ」というのは、実はこの本を僕は最後まで読んでいない。だから結末も分からぬままだ。時間が無かった訳ではない。けれど僕のページをめくる手は、主人公が殺人の容疑をかけられ、取調中に発した一言によって、文字通り、硬直した。
「自分のやったことなのにわからないんだったら、そりゃぁもう、そんなことやってないってことだろう。あんたら以上に俺を知っている人間なんかいないんだから。」
堂々と言ってのけた主人公に対して、どうしてか恐怖のようなものが芽生えた。決して自らが二重人格者であるかも知れない、と不安に思った訳ではない。僕は自分のことを本当に理解しているのだろうか、と考えてしまったのだ。

自分は今まで、自身のことを分かっていない、と思われる人間に何度も出会ったことがある。明らかに服のサイズが違っていたり、一向に上達しないものに没頭していたり、人それぞれだが、その人々の事を少なからず僕は心の中で嘲笑していた。しかしその全ての愚弄は自らへとのしかかる。
考えてみれば、自分は良い側面と悪い側面を切り離して見ていた。そしてどうしても、何かから逃げ出したい時は良い側面だけを見つめていた。確かに悪い側面もあるということは分かっていたが、その両方が合わさっているのが自分だとは認めたくなかったのだ。
また、嫌な出来事が起こってもそうだ。すぐに気持ちを切り替えられる、というと聞こえは良いが、実際はただの現実逃避だ。バスケットボールの試合の大事な局面でシュートを外した時も、友達を怒らせてしまった時も、いつも僕はその事実から逃れようとしていた。
こうやって、悪い側面ばかりが浮かんでしまう時、僕は必ず自分の良い部分を思い浮かべていた。しかし今回は使い古した思考回路へと踏み入ることは無かった。
「全てひっくるめて自分なんだ。」
ただひとつの簡単な答えに行き着くのに16年もの月日を費やしてしまったということに、今となっては嫌気が刺すが、この一文が頭に過った瞬間、僕は流れを塞き止めていた大きな固まりが砕け散ったような、言い表せない充実感と、同時に、踏み込んだ未知への不安に襲われていた。

行く当ての無いまま邁進する僕の思考が、また何かにぶつかることはあるだろう。しかしそれはまたその時の話である。いつでも前向きなのが良い側面で、後先を考えないのが悪い側面。それら両方を兼ね備えているのが自分。

他に遅れをとりながらも、たったひとつの小さな壁をようやく乗り越えることが出来た、高校1年の冬だった。

(高等部1年生 男子)
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