2013年度 入学始業礼拝 校長式辞

2013年度 入学始業礼拝 校長式辞 2013年度 入学始業礼拝 校長式辞

2013年4月14日

新入生の皆さん、入学おめでとうございます。在校生諸君、進学おめでとう。

今年の日本はとても暖かい3月で、例年より2週間も早く桜が咲いたとのことでしたが、ここイギリスは、観測史上今までで一番寒い3月だったそうです。実は本日、今この瞬間が、今年の最高気温に達したところだと思います。お陰で立教の桜は、毎年いつも、春休み中に散ってしまって誰も見る人がいない、とても残念だったのですが、今年は初めて、入学式に桜が咲いて、黄色い水仙も今が満開、これでやっとイギリスにも春が来た、そんな良い入学の日となりました。

この学校の桜は、苗木の状態ではるばるオランダ経由で運ばれて、キャンパスのあちこちに植樹されたものです。高さ数十cm だった小さな苗木が、一年また一年と、少しずつ、着実に成長し、ようやく花が咲くようになり、何年もかけてやっと今のようにお花見ができるほどの大きさになりました。

この学校も、スタートしたときには、生徒は小学生19名のみの小さな苗木の状態でした。最初の小学6年生が翌年進学したときに初めて中学1年ができ、その翌年に中2、その翌年に中3、というように一年、一年、積み重ねながら成長してきました。1972年に開校し、昨年、創立40周年を迎えました。このあと新入生の皆さんにお渡しする胸のバッジには、この1972の数字が記されています。この数字には、一番最初に海外にできた私立の全寮制日本人学校である、という誇りがこめられていると思います。

本館と呼んでいる女子寮の前には、創設者縣先生のレリーフが立っています。初代校長をつとめた縣先生が、創立20周年のときに記した著作の中で、「ごく簡単に言えば、学校設立の動機は、これからの日本の若い人達に、真の国際的教養を身につけさせたいということと、日英の親善のために何かしてみたいと思ったことである。」と述べられています。
41年目のスタートとなる今日、本校を取り巻く環境も、日本を取り巻く環境も、創立当時とは大きく異なってきましたが、国際的教養を身につけ、国際親善のためにつくすことのできる人間の必要性は、40年前とは比較にならないほどますます大きくなってきていると言って良いでしょう。

真の国際人の養成だとか、グローバル人材の育成だとか、英語に力をいれていますとか、そう言っている学校は今ものすごく沢山あります。立教はそういう学校とどこが違うか。学校がイギリスにあって、国際交流の機会が日本の学校とは比べ物にならないほど沢山ある、それも勿論ですが、最大の特長は立教が全寮制の学校であるということだと思います。

高2の山本さんが、「日常生活という国際交流」という題で短期交換留学の作文を書いています。その中で、「日本のことを教えたり、授業をともに受けたりしたことより、とにかく自然に話して、一緒に生活して、同じテーブルで食事して、並んで廊下を歩いて、最後はただ集まって笑った、そんな日常的な国際交流が一番有意義だった」と書いています。

これは何も相手がイギリス人に限ったことではありません。今ここには、一人ひとり、生活環境も違い、経歴も異なる157名の個性あふれる生徒たちが集まっています。そんなみんなと、一緒に生活して、同じテーブルで食事して、並んで廊下を歩いて、ただ集まって笑う、実はそれこそが、これからの国際社会の中で、環境も考え方も異なる色々な国の人たちと、共に生きていく、その初めの一歩である、と言えるのではないでしょうか。
球技大会や、オープンデーをはじめとする様々な学校行事を、時には衝突しあい、喧嘩しあいながらも、お互いに協力し合い、協調しあって、それぞれの人たちがそれぞれに自分の活躍の場を見い出し、最後にはみんなで力を合わせて素晴らしいものを作り上げていく、その力こそが、これからの世界を生きていくために求められているものだと思います。

今年度から高等部でも、文部科学省の新学習指導要領が全面実施となり、これでいわゆる「ゆとり教育」が姿を消します。ちょっと脱線しますが、去年中学2年生の理科の授業で、「単3乾電池の電圧は何ボルト?」と聞いたら、「小学校で習っていないのでわかりません、」という人がいて驚きました。「だって私たち、ゆとり世代ですから」と言われてしまいました。バブル経済崩壊後の日本を「空白の10年」とか、「失われた10年」などと言います。最近ではそれが「失われた20年」になってしまいましたが、この間に失われてしまったのは日本の経済力だけではありません。学力も失われてしまいました。実は日本という国の未来を考えたとき、こちらの方がずっと重大な問題だと思います。ゆとり世代がこれからの日本を支えていくと考えると、ちょっと心配になってしまいます。

さて、「ゆとり教育」に代わって、新しい学習指導要領のテーマは「生きる力」になりました。文部科学省のホームページを見ると、

これからの教育は、「ゆとり」でも、「つめこみ」でもありません。次代を担う子どもたちが、これからの社会において必要となる「生きる力」を身に付けてほしい。そのような思いで、新しい学習指導要領を定めました。
と書いてあります。「生きる力」をはぐくむこと。これこそ立教が全寮制の生活を通して、40年間やってきたことだと思います。先学期末、日本に帰った岩崎さんと川崎さんが最後に書いていました。立教で得た最大の宝物は、英語でもない、イギリス文化でもない、寮生活であると。朝から晩まで生活を共にし、一日3度の食事を共にし、泣いたり笑ったり歌を歌ったりして一緒にすごしたクラスメイト、先輩、後輩、一生の友達との出会い、それこそが立教で得た最大の宝物であると。

新入生の皆さん、君たちはこれからこの立教という大きな家族の一員になります。はじめはひたすら時間に追われて、生活していくだけで精一杯かもしれない。でも勇気を出して、最初の一歩を踏み出してみてください。気がついたときには、君たちは自然にこの立教の一員になっているはずです。

上級生は今まで先輩から色々教えてもらった、そのことを忘れずに、今度は自分が下級生の面倒をみてあげてください。高等部3年生、君たちの赤ネクタイは高3としての責任の重さの証です。今年はどんな高3になるのか、後輩たちにどんな背中を見せて卒業していくのか、今から楽しみにしています。高校2年生、君たちはこれから学校の中心になります。自分たちのことだけでなく、学校全体のことを考えて行動しなければなりません。

今年初めて、新入生や保護者の方がた、そして教員全員に名札をつけるようにしました。これは昨年の入学式のときに新入生の案内をしてくれた高3の北端さんが、こういう風にするともっとうまくいくと思います、と書き残してくれたことの一つです。
そうやってみんなで力を合わせながら、より良い学校を目指していく、そういう学校であり続けたいと思います。

下級生は先輩が優しいからといって甘えすぎないように。きちんと礼儀を守る、けじめをつける、言葉遣いに気をつける、そういうところをしっかりできなければいけない。そういう下級生の上に、初めて優しい上級生という存在が成り立っていくのです。それを忘れないでください。

ルカによる福音書第6章31節に、次のようなイエス様の言葉があります。
「人にしてもらいたいと思うことを、人にもしなさい。」
人からあれをしてほしい、これをしてもらいたい、そんなことばかり考えて生活するのではなく、君たち一人ひとりが、友達のために何をしてあげられるか、先輩のため、後輩のため、一緒に生活している人のために何ができるのか、いつもそういうことを考えながら、これからの生活を送っていってほしいと思います。
君たちの成長を祈って、本日の入学・始業礼拝式の式辞といたします。