2010年 ケンブリッジ大学 Science Workshop

2010年 ケンブリッジ大学 Science Workshop 2010年 ケンブリッジ大学 Science Workshop

昨年の夏ケンブリッジ大学で行われた日英高校生によるサイエンスワークショップは、イギリスではClifton Scientific TrustのDr Alboneが主催責任者となり、本校でChemistryを教えるDr. Okanoとの共同運営によって行なわれました。日英の高校生を科学という絆で結び「科学の探究」に新たな基準を作ろうという両博士の意気込みにより、丁度10年目を迎えたワークショップは科学研究の最高峰、ケンブリッジ大学で開催する運びとなりました。
その夏の大成果を各方面に報告するDr Alboneからのレポートはこちらからどうぞ。
以下はDr OkanoによるScience Workshopのレポートです。

Dr Okanoによるレポート

2010年8月1日より、英国ケンブリッジ大学を会場として、日英高校生を対象にした科学ワークショップが開催された。2001年に初めて英国ブリストルで行われたサイエンスワークショップ、2003年の立教英国学院でのパイロットプロジェクト、そして2004年より京都で始まった日英隔年開催のワークショップは今年10年目の節目を迎え、科学研究の世界の最高峰であるケンブリッジ大学で開催する運びとなった。本校は2001年より企画運営に参加しており、今年で第7回を迎える。今年は直接ケンブリッジ大学の科学研究者より指導を受け、英国人高校生と共に最先端の科学を探求、実験、調査、討論、発表することを特に目指した。ケンブリッジ大学、マリーエドワードカレッジに英国人高校生と共に宿泊し、科学を学ぶだけでなくお互いの文化を学びあう、国際理解、文化交流も目的の一つである。

日本からの、文部科学省によって指定されたスーパーサイエンススクール5校の生徒・教員27名に加え、本校からは5名の生徒が参加した。英国側6校の学校からは同世代の高校生22名が参加した。ワークショップに先立って、日本側参加者を対象に、プレワークショップ(ロンドン研修)を企画した。立教英国学院を起点としてロンドンに外出し、近代科学の原点であるロイヤル・ソサエティ(王立協会)をはじめとする諸学術学会、王立研究所、自然史博物館、大英博物館を訪問し、科学の本物に出会うことができるような研修を行った。

多感な高校生のこの時期にワークショップに参加する経験は、今後の高校生活にあたり、将来展望、学習の動機、進路、進学の面でも大きな影響を与えたものと考えている。本校教員代表として参加した岡野はその企画運営、小林はワークショップの記録の面で、ケンブリッジで行なわれた初めてのワークショップの運営に協力した。

プロジェクトテーマ
今回のプロジェクトテーマは、化学、物理、生態学、生命科学の4つの領域に分かれている。いずれのプロジェクトでもケンブリッジ大学で活躍する先端研究者の指導をお願いした。それぞれのプロジェクト中で指導される先生方に、高度な研究、機器に触れるだけでなく、先生方が行っている実験の意味、役割、社会との繋がりを、実験を、また先生方の研究姿勢を通して高校生が学ぶことができるように特にお願いをした。

本校の5名の生徒達はそれぞれ、「脳の認知」、「将来の電子機器」、「神経細胞の退化」、「南アメリカの蝶の生態」、「テントウムシとその寄生」の各プロジェクトに参加し、GCSEで鍛えた英語力を駆使してケンブリッジでの初めてのワークショップの成功に大いに貢献した。

化学分野
化学分野では、ケンブリッジ大学化学学部シャーマン博士の指導によりナノ粒子の化学的合成の実験を行い、化学分野におけるナノテクノロジーの先端研究とその限界を体験することができた。同時にこのプロジェクトでは指導してくださる研究者と高校生の間で活発な質問が交わされ、シャーマン先生はその質問の質の高さに驚いていたことが印象的であった。シャーマン博士は今回のプロジェクトの指導研究者として真っ先に名乗りをあげていただいた先生であり、若い高校生の時にこそ、先端研究者との交わりの経験をすべきであり、科学への情熱をもつ若者が増えれば未来への財産になるとの考えを持っておられる。今後もケンブリッジでのワークショップでの中心指導者として活躍して頂けることを期待している。

物理分野
物理分野はケンブリッジ大学物理学部、キャベンディッシュ研究所、日立ケンブリッジ研究所の協力で行なわれた。ケンブリッジ大学が輩出した85名のノーベル賞受賞者のうち、この研究所研究者だけで29名を占めている。マックスウェル、ラザフォード、トムソンなどの物理学者、遺伝子構造の決定をしたワトソン、クリックらがこの研究所で実験をしたことを考えると、科学研究を目指すものにとっては身震いする思いがあり、理系の高校生にとっては夢のようなできごとである。このプロジェクトでは将来の電子機器へのナノテクノロジーの応用をテーマに日英の9名の生徒達が極小のナノの世界に挑戦をした。浮遊のゴミが全くないクリーンルームでの電子機器の中心部分である基盤回路の製作は、先端の科学技術に触れるだけでなく、大学とは異なる企業レベルでの研究の意味、更に日本を代表する企業がケンブリッジで研究所を持つ意義について、国際的チームワークの重要性について体験することができたと思う。

生態学
ケンブリッジ大学生態学部で行なわれたプロジェクトは、レン博士、マルガリータ博士の指導により、マディングリィーにある新装新たな生態学部の建物で日英18名の高校生が3つの班に分かれて行われた。『テントウムシとその寄生』、『蛾の生態とその寄生』、『南アメリカ
の蝶の生態』についてである。他プロジェクトが研究室の中で行われたのに対して、フィールドワークが主体となり、テントウムシ、蛾を追い求めて生徒達は網を片手に採集に努めた。最初は蜘蛛、蛾といった昆虫に叫び声をあげていた女子生徒もレン博士の何と美しい昆虫達だろうの声に、昆虫達の持つ不思議さ、美しさを感じることができたのではないかと思う。テントウムシは在来の七星テントウムシに加え、外来のテントウムシが発見され、その旺盛な食欲により在来種のテントウムシの減少、またテントウムシに寄生する寄生虫のメカニズムも調査した。蛾のチームは英国を代表するホースチェスナット(栃の木)に寄生する蛾の調査を行い、ここでも、テントウムシ同様、自然界が持つバランスのとれたメカニズムの不思議さを感じ取ったと思われる。南アメリカ蝶の生態については、熱心に南アメリカで森林の保護を訴えているマルガリータ博士の指導で、蝶は学習するかの研究を行った。高湿度、スコールさえ降る季候コントロール室で、汗をかきながら、そしてスコールに濡れながらも、異なる色に集まる蝶の生態調査を行った。ハイテクノロジーの技術ばかりが最新の先端研究ではなく、このような地道な作業が地球環境を守っていく一つの道であることを体験したに違いない。

生命科学
生命科学のプロジェクトはケンブリッジ郊外にあるベイブラハム研究所で行なわれ、日英16名の高校生が、生物情報科学、脳の認知、神経細胞の退化、細胞間の信号に関する探求実験を行った。これらのテーマは学校では学ぶことのできない難しいテーマであったが、人間が抱える老化の問題、アルツハイマー病、画像認識に関する第一線の研究者による興味あるテーマに高校生が挑戦した。この研究所では生命倫理に関する討論も活発に行なわれ、実験面だけでなく、研究者が抱える倫理面での問題に、慣れない英語を駆使しながらも何とか自分達の考えを伝える日本の高校生達の姿が印象に残った。

プレゼンテーション
ワークショップの最終日には、生徒達のこの一週間のワークショップの成果を発表する研究発表会が嘉悦ケンブリッジ教育文化センターで行われた。日英の高校生、引率の先生方、指導して頂いた研究者の方々、併せて100名ほどの出席があり、それぞれのプロジェクトグループからの発表があった。実験の成果だけでなく、ワークショップの経験を通して得られた体験も生徒から語られ、国際交流として科学が果たすべき成果を十二分に感じられる発表であった。2001年ブリストルの発表に比べると、日本の高校生の落ち着いた態度、わかりやすさ、機知にとんだスピーチを楽しむことができた。英国を代表する学術会議である王立協会会長であり、ケンブリッジトリニティーカレッジの学長でもあるリース卿の高校生への励ましの言葉、英国化学会チーフエクゼグティヴであるパイク教授からそれぞれのプロジェクトへのコメントを頂けたことは、主催者としてこの上ない栄誉である。

将来展望
ケンブリッジでの初めてのサイエンスワークショップは無事成功裏に終了することができた。今までは日英隔年の開催であったが、2011年については、日英同時開催の準備を進めている。京都では京都教育大附属高等学校を中心として、8月中旬に京都大学で開催される予定である。一方、英国では7月中旬にケンブリッジ大学での開催を予定している。今年同様、本校でのロンドン研修も企画されている。2011年ケンブリッジでのワークショップでは、広く門戸を開き、日本全国の高校へその参加を呼びかけることにしている。

報道
今回のケンブリッジ大学での取り組みは、朝日新聞(九月五日付)で報道され、ケンブリッジ大学、ベイブラハム研究所、ロンドン日本大使館、京都教育大学附属高校、横浜サイエンスフロンティア高等学校のホームページにも紹介されている。